Auf dem Berge da wehet der Wind,
山には風が吹いています、
da wieget Maria ihr Kind,
マリアさまが御子を揺すぶっています。
sie wiegt es mit ihrer schneeweißen Hand,
マリアさまはその白い手で御子を揺すぶっています、
sie hat dazu kein Wiegenband.
抱っこ紐がありませんから。

„Ach, Joseph, liebster Joseph mein,
「ああヨセフ、わたしの愛しいヨセフ、*1
ach, hilf mir wiegen mein Kindelein!“
わが子を揺すぶるのを手伝ってくださいな。」

„Wie soll ich dir denn dein Kindlein wiegen?
「どうしたらわしにお前の子を揺すぶることができるものかね、
Ich kann ja kaum selber die Finger biegen.“
わしの指はこわばって曲げるのも一苦労だよ。」*2

Schum, schei, schum, schei.
ちぇっ、ちぇっ、辛気臭いネ。*3

*1 別の有名なドイツ民謡《ヨセフ、わたしの愛しいヨセフ》とほとんど同じセリフ。

*2 イエスの養父でマリアの夫であるところのヨセフの扱いは、庶民の間ではかなり雑で、しばしば身に覚えのない若妻を持て余す年寄りとして扱われた。ヨセフの指がこわばって曲がらないのは、老人性のリウマチや通風などを患っていると解釈できる。
*3 このあたり意味不明のフレーズ。ドイツ語に詳しい人ご教授ください。マリアさまが「は?使えんジジイやな!」っておっしゃってるの?

text & tune:  ドイツ・シュレジェン地方(現ポーランド・チェコのシレジア)の民謡。最もよく知られるバージョンは1841年出版のドイツ民謡集から。

聖家族木像(バイエルン州ケンプテン所蔵、1510年頃)
「あらあらウフフ」「キャッキャッ」(やめてくれよ…)みたいな構図好き。
1024px-La_Sainte_Famille,_Paris,_Musée_de_Cluny

途中まで普通のクリスマス民謡かと思ったらなんなのこの歌詞は(困惑)。
赤ん坊をあやし疲れた母親と、年老いて赤ん坊をあやすこともままならない父親という、かなり世俗的でとぼけた情景のドイツ民謡。
もっとも古い文献初出は、「Affentheurlich Naupengeheurliche Geschichtklitterung」(1575年)という小説における引用とされる。

マリアに対して邪険な態度をとるヨセフというモチーフの民謡はフランスやイギリスにもあり、民間では定番のネタであったらしい。





アルニムとブレンターノによる民謡集「少年の魔法の角笛」(1808年)では、この歌の前半部分のみが収録されている。この本は編集の際に野卑な部分を省略してしまうか芸術的に改変してしまう傾向があり、後半部分はあえて削除されてしまったのかもしれない。





Rundfunk-Kinderchor Berlin
収録アルバム: Friede auf Erden


おまけ:讃美歌第二編213番では「ゆりかごに風吹き」で始まる、原信子による日本語訳詞がある。
こちらは原詩と違って、リウマチのヨセフは出てこない。良かった。